やさしいきもち

~人が好き。人の笑顔を見るのが好き。誰しもが幸せであることを祈り、綴る言葉のあつまり~

やさしい腕

さりげなく そっと差し出された腕

優しい腕

その時彼女は 何を思っただろう?


とある道路で

歩道の拡張工事が行われていた。

狭い歩道はますます狭くなっていて、人一人通るのがやっとのその道を

目の見えない一人の女性が

白い杖を頼りに歩こうとしていた。


するとその時

工事現場のある男性が彼女に近づき そっと声をかけた。

二人がどんな会話を交わしたのか

後ろにいた私には全く分からなかったが

彼女が彼の声に小さくうなづくその姿が見えた。


次の瞬間

彼がすっと自分の腕を差し伸べ 彼女はその腕に従った。

二人は 狭い歩道をぴったりと寄り添って歩いていった。


その時彼女は何を思っただろう?


目の不自由な彼女にとって

見ず知らずの人の腕を頼りにすることは そうたやすい事ではなかっただろう。

彼のかけた言葉と ごく自然に差し出された腕が

彼女の心に『信頼』というものを芽生えさせたのだろう。


彼にとって 腕を差し伸べることは仕事の一つだったのだろうか?

たとえ仕事であったとしても

彼女を危険から守ろうとする気持ちがなければ

あれほどまでに自然に腕を差し出す事はできなかっただろう。


彼のやさしい腕は

思いやりのある言葉は

真摯な気持ちは

彼女の目となり 杖となった。


一瞬の出来事。

しかしその中に

彼と彼女の間には

確かに『信頼』が築かれていた。


全ての人が

やさしい腕を持つ世界になってほしい。


そう 願う。